NASAは7月29日の「今日の天文写真」で、宇宙船サイキが火星の重力を借りて進路を変えた映像を紹介しました。5月15日の最接近では火星表面から4609キロまで近づき、時速約1600キロの加速と軌道面約1度の変更に成功。この加速には、機体の推進剤を使っていません。
仕組みは「重力アシスト」です。火星は太陽の周りを平均時速約8万7000キロで動いています。宇宙船は近くを通る間に火星へ引かれ、その公転運動から少しだけ勢いを受け取ります。惑星は給油所ではありませんが、通過便をひと押しできます。
接近中にはカメラ、磁力計、ガンマ線・中性子分光計も作動させました。火星の接近前後と表面を数千枚撮影し、2029年の本番で使う画像処理や観測装置を確認しています。進路変更の途中で、機器の予行演習まで済ませた形です。
目的地の小惑星サイキは最大幅約280キロ。岩や氷ではなく金属を多く含むと考えられ、NASAでは金属質の小惑星を詳しく調べる初のミッションです。到着予定は2029年8月。火星は目的地ではなく、燃料を減らさず次の乗り場へ送る巨大な乗換案内でした。